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高松高等裁判所 昭和39年(行コ)4号 判決 1965年6月25日

控訴人 松山人形玩具株式会社

被控訴人 松山税務署長

訴訟代理人 杉浦栄一 外四名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が控訴会社に対し、昭和三一年一一月九日付を以て(1) 昭和二八年六月一日から昭和二九年五月三一日までの事業年度における控訴会社の所得金額を金九六万八、〇〇〇円(2) 昭和二九年六月一日から昭和三〇年五月三一日までの事業年度における控訴会社の所得金額を金六八万六、九〇〇円とそれぞれ決定した処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴指定代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、並びに証拠の提出、援用、認否は、次に附加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、それをここに引用する。

(一)  控訴代理人がした本件各処分の通知書の理由の附記が不備であるとの主張は、原審の準備手続が開始される以前である昭和三三年四月二四日午前一〇時の第二回口頭弁論期日において、原告代理人が陳述した同日付準備書面中にその趣旨のことを記載しているから(同準備書面(一)の末項参照)、準備手続において主張しなかつたからといつて、民事訴訟法第二五五条の適用を受けるものではない。仮りに、原審の準備手続後である昭和三八年九月三〇日午前一〇時の第一六回口頭弁論期日において原告代理人が昭和三八年七月二九目附準備書面に基づき、右主張を初めてしたものとしても、これによつて著しく訴訟を遅滞せしめるものではないから、右主張は許されるべきである。

(二)  彼控訴指定代理人の陳述。本件各処分の通知書の理由の附記が不備であるとの控訴会社の主張は、昭和三八年九月三〇日午前一〇時の口頭弁論期日に突如としてなされたものであつて、これがため被控訴人は、右通知書の理由の附記が具体的であつた旨の反論並びに立証のため、準備書面を提出し、証人として調査担当者であつた査察官尾崎務、協議官砂川飄の証人尋問を求め、乙第一九号証、同第二〇号証を提出し、各証拠調が行われるに至つた次第で、これは著しく訴訟を遅滞させたこと明らかである。また青色申告に対する決定又は更正処分の理由の附記については、原審における準備手続終結の日までに、既に、控訴会社引用の最高裁判所の判例と全く同じ見解に立つ下級審の裁判例が多数出ていたのみならず、税法学者においても論議していたところであり、更に昭和三四年一〇月二二日国税庁長官の名で、更正の理由の記載方法について、「なぜに更正されたかを、青色申告者が一読して理解できるよう個々の事案に応じて具体的且つ平明に記載すること」、との公開通達を出していたので、かかる状況のもとにおいて、控訴会社が準備手続中にその主張をしなかつたのは、重大な過失であつたものというべきであり、前記主張は民事訴訟法第二五五条により許されないものである。

(三)  控訴代理人は、証拠として甲第一四ないし第二五号証を提出し、被控訴指定代理人は右甲号各証の成立を認めた。

理由

控訴会社が、人形玩具花火の卸売および人形の製造を営む株式会社であつて、政府の承認を受けて青色申告書を以て、昭和二八年度および昭和二九年度の各事業年度分の法人税申告につき、その主張のような青色申告書を各所定期限までに被控訴人(松山税務署長)に提出したこと、被控訴人が昭和三一年一一月九日付で、控訴会社の昭和二八年事業年度分の所得金額を金九六万八、〇〇〇円、昭和二九年度事業年度分の所得金額を金六八万六、九〇〇円とそれぞれ決定し、その頃、その旨を控訴会社に通知したこと、その各通知書の理由の附記はいずれも、「社長下出清治郎が個人財産と主張される預金増加額は会社の除外利益によるものと認めます。」と記載されているに過ぎないこと(甲第一一号証、同第一二号証参照)、控訴会社はその決定を不服として再調査の申請をしたが、審査請求とみなされて、昭和三二年一〇一五日高松国税局長から理由がないとして、右請求を棄却されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴会社は、被控訴人のした右各所得金額決定処分は、その各通知書に法人税法第三二条(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの、以下同じ)が要求する理由の附記を欠いているから違法である旨主張するので以下判断する。

被控訴人は先ず、控訴会社の右主張は、原審の準備手続における調書またはこれに代る準備書面に記載されていない事項であるから、民事訴訟法第二五五条により準備手続以後の口頭弁論においては、主張することができないものであり、また同条第一項但書の要件も充さないから、却下されるべきである旨主張するので、その点から判断を加える。控訴会社の右主張は、原審の準備手続における調書並びにこれに代る準備書面に記載されていないことは、記録上明らかであるが、一方記録によると、原審における準備手続開始前の昭和三三年四月二四日午前一〇時の第二回口頭弁論期日において、原告代理人が陳述した同日附準備書面中に「被告(被控訴人)は原告(控訴会社)に対し納得のいく所得源を指示し、或は決算の誤りを指摘する等条理ある措置に出ずべきであつて、被告が単に売上計上洩なりとし、或は原告会社の所後を原告会社代表者下出清治郎が背任横領したかの感を与える説明を以て賦課し来るが如きは、著しく失当という外ない」(同準備書面(一)の末項参照)と記載されていること明らかである。この記載はその主張の趣旨が稍明確を欠く憾があるとはいえ、本件各処分の理由の附記の不備を指摘して、その違法を主張するものと解し得られないことはない。従つて控訴会社の理由附記不備の主張は、準備手続後の口頭弁論において、初めて主張されたものとは、必ずしも言い難いのみならず、仮りにそうでなく準備手続後の口頭弁論(昭和三八年九月三〇日)で初めて主張されたものとしても、右主張は、本件各処分通知書(甲第一一、一二号証)の記載自体から、その当否を判断できるのであるから、著しく訴訟を遅滞させるものであるとは認められない。故に右主張を却下するのは相当でなく、被控訴人の主張は採用できない。

そこで進んで本件各処分の理由附記の適否につき検討する。およそ法人税法第三二条により、青色申告書を提出した事業年度分の所得金額の更正または決定の通知書に、その理由を附記する場合には、青色申告制度が納税義務者に対し一定の帳簿書類の備付記帳を義務付けている反面、その帳簿を無視して、所得金額が決定または更生されることがないことを納税者に保障している点に鑑み、税務当局のなす更正または決定の公正妥当を担保するために、当該法人が更正または決定の理由を推知出来ると否とにかかわりなく、備付帳簿書類との関連において、いかなる理由によつて更正または決定するかを帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることが必要であると解するのが相当である(最高裁判所昭和三八年五月三一日、同年一二月二七日各判決参照)。そうだとすれば本件各処分の通知書に記載された前記のような理由附記は、それだけでは、控訴会社のどの帳簿にそのような誤りがあるため、そのように認めたのか、またいかなる資料によつてそのように決定したかが明らかでなく、未だ法人税法第三二条の要求する理由附記があつたものとは認め難い。

そうすると、本件各決定処分は、その他の点についての判断をするまでもなく違法であり、取消を免れず、控訴会社の本件各決定処分取消の請求は理由があるといわなければならない。

従つて、本訴請求を棄却した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条によりこれを取消し、控訴会社の請求を認容することとし、訴訟費用の負担については、同法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浮田茂男 水上東作 山本茂)

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